横浜家庭裁判所 平成11年(少)3650号
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
(非行事実及び適用法令)
本件法律記録中の司法警察員作成の平成11年6月29日付け少年事件送致書に記載の犯罪事実及び罰条と同じである。
(処遇の理由)
本件は、平成11年6月19日、少年が結婚も念頭に交際中の男友達B方に遊びに赴いた際、幻覚を伴う異様な症状を呈して苦しむのをBが見かねて消防署に救助を依頼したため警察に通報され、尿の任意提出に応じたことから発覚した覚せい剤の使用事案である。
少年は、平成11年4月に県立高校に入学したが、入学後ほんの数日で謹慎処分を受けるまま登校意欲を失い、以後まったく登校することもなく徒遊生活に陥ってしまったところ、少年の供述によれば、少年が初めて覚せい剤を使用したのは、こうして徒遊中の同年5月中旬ころ、女友達に誘われ車でドライブして遊んだ際、同行することになったC(当時23歳、暴力団組員)に覚せい剤を注射してもらいながら、C及びその連れの男と性交渉を持った時であり、その数日後、再びCに会って覚せい剤を使用した折り、同人から覚せい剤をただでくれる人を紹介してくれるとの話が出て、同月26日ころ、暴力団員で密売をしているというその男(A、当時36歳、暴力団幹部)を紹介され、さっそく覚せい剤を注射してもらって性交渉を持ったのを手始めに、以後、3日おきくらいにAと会っては、その都度、覚せい剤を注射してもらいながら性交渉を持って、注射してもらう覚せい剤の量や回数はどんどん増えていき、ときには膣内に覚せい剤を塗り込んでもらうこともあったという状況であった。その間、優しく叱ったりもしてくれる人だとAへの情愛の念を深めつつ、同人と覚せい剤を使用してする性交時の快感に溺れるようになりながら、Aから紹介されて暴力団関係者と性交渉をもつこともあった様子である。なお、少年は、上記のとおり尿を任意提出して警察の事情聴取を受けた(もっとも、この折りには、上記のような背景は語らず、見知らぬ人から偶々勧められて何回か使用していた旨を述べていた。)後にも、Aと密会して覚せい剤を注射してもらっていた。
少年の覚せい剤使用期間はさして長期にわたるものではないが、その間、使用頻度のみならず1回あたりの使用量は著しいものに達していたものと窺われ、覚せい剤をやめるくらいなら死んだ方がましだと思われるほどに使用時の快感を覚えるにまで至るまま、少年の覚せい剤に対する依存性は急激に高まり、少年の心身は大きく損なわれるに至っている。本件観護措置期間中の行動観察によれば、覚せい剤中毒後遺症としての情緒不安定は依然著しく、なお相当期間は専門的医療環境のもとにおいて治療を継続しなければならない状態が続いている。
少年は、基本的に寂しがり屋で甘えが強く、常に誰かに依存していたい気分が顕著である。同年代の仲間との対等の関係を結ぶことは苦手で、年長者に頼ることが多い。周囲の注目を集め、自分を認めさせたいとして、お洒落に凝るなど、とかく外面を派手に飾り、目立つ行動をとることに流れがちである。このような性向が相まって、中学校在学当時にはすでに、不良っぽく振る舞うのが格好のいいことに感じられるまま正常な学校生活から離脱するに至ってしまい、高校にはなんとか入学できたものの、覚せい剤や暴力団など不良文化に対する抵抗力は著しく希薄なものになってしまっていた。少年は、自分の生育歴を振り返って、「親にとって手のかかる子でありたかった」と述べているが、物心のついたころには父母はすでに離婚していて、自分は母方祖父母のもとで育てられており、母は別に男性と所帯を構えていて十分に甘えることもできず、ようやく中学入学の時点で、更に別の男と再婚するに至った母と同居する生活に入ったものの、継父の顔色をうかがうように自分のことを叱ってくるものと母の姿を感じながら過ごす有様で、無条件に自分が母から愛されている存在であるとの実感も得られず、更にこの婚姻生活が破綻するなか母が別の男との関係に流れてしまうと、少年は、すでに祖父母が転居してしまった後の母の実家に叔父Dと二人で残されるという生活を送ってきたもので、上記した少年の資質面・行動傾向面の問題点は、このような家庭環境にも影響されたものとして根が深いものがあるとともに、意図的に少年を覚せい剤中毒に導いていたのではないかと思われるような前記のとおりのAとの関係でありながら、少年においてはAから愛されていると感じつつ無批判に情愛の念を抱いて結びついていったことの背景に、母親に対する愛憎入り交じっての自分でも整理できない複雑な感情の存在を認めることができる。
少年は、Aとの関係を深めるまま覚せい剤の使用に耽弱してしまった今回の経緯を大変な失敗であったと振り返ることはできるに至っているが、このような事態に陥ってしまった背景にある自分の問題をどう乗りきっていくかを考えられる段階には至っておらず、また、目標をもって着実な努力を重ねる根気など自分の今後の生活を健全な基盤の上に固めていくのに必要な基本的な力量も育っていない。
叙上の諸点に照らせば、少年に対しては、中等少年院に収容して系統的矯正教育を施すことが必要であると認められるが、前記のとおり、当面は専門的医療環境のもとでの覚せい剤中毒後遺症に対する治療の継続が必要であるので、先ず医療少年院に収容して矯正教育を開始し、専門的医療環境のもとでの医療措置の必要がなくなった時点で中等少年院に移送するのが相当である。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定し、別途、医療措置終了後は中等少年院に移送すべき旨を処遇勧告することとする。
(裁判官 八田秀夫)